多嚢胞性卵巣症候群(PCO、PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群と言われました。どんな病気ですか?

 名前の通り、卵巣に卵胞(卵の入った袋のようなもの)がたくさん出来るのですが、なかなか排卵できない病気です。右のMRI写真で様子がおわかりいただけますか。

 多嚢胞性卵巣症候群というのは長い名前なので、英語名のpolycystic ovary symdromeを略してPCOとかPCOSと呼ばれることがあります。

 PCOSは、全く排卵しなくなってしまう場合、時々排卵する場合、月経周期が延びてしまう場合、黄体機能不全になる場合、多毛になる場合など、症状は様々です。LH(下垂体から分泌される黄体化ホルモン)や男性ホルモンが高値になることが多いのですが、どうしてそうなるのか、原因はよくわかっていません。右に、医師向けに作ったスライドを示してあります(もちろん私がオリジナルに考えたものではありません)。医師にとっても(もちろん私にとっても)このメカニズムは複雑です。世界中の内分泌の専門家が研究を進めているのですが、まだきちんと解明されていません。

 PCOSは進行性の病気と考えられていますが、自然に治ってしまうこともあるようです。

 典型的なPCOSの症状を示す患者さんがいる一方、典型的ではないがPCOSに類似した症状や検査結果を示す患者さんもいます。

 典型的なPCOSの場合は、初経の時から月経不順のことが多いようです。

  妊娠を希望しない方で、軽症の場合は経過をみるだけでも構いませんが、重症の場合は治療が必要です。いずれにしても、基礎体温をつけられ定期的に受診していただくことが大切です。




どんな場合にPCOSと診断をするのですか?

 2003年 Rotterdamでアメリカとヨーロッパの不妊学会関係者が集まり、改めてPCOSの診断基準を検討し、下記3つのうち少なくとも2つがあった場合にPCOSと診断すると決めました。

1.稀発排卵もしくは無排卵である
2.臨床的かつ/もしくは検査で高アンドロゲンの所見がある
3.多嚢胞性卵巣であり、他の原因(先天副腎過形成、アンドロゲン産生腫瘍、Cushing症候群など)がない

 2003年に改めて検討しと書いたのは、1990年にあった合意を変更したものだからです。変更された主な点は、3の「多嚢胞性卵巣」という超音波断層法で診断される形態的な所見が重視されるようになったことです。

 多嚢胞性卵巣は、それぞれの卵巣について2-9mmの卵胞が12個以上あり かつ/もしくは 卵巣体積が10mlを超えている(左右の平均)場合に診断されます。経腟超音波断層法で検査されます。

 内分泌検査では、月経開始直後(多くの場合は月経3日目)に、テストステロン(もしくはFreeテストステロン)、LH、FSH、エストロン*、エストラジオール、アンドロステンジオン*、SHBG*(*保険が使えません)などを測定します。テストステロン(もしくはFreeテストステロン)は、高値になります。テストステロン(もしくはFreeテストステロン)は男性ホルモンです。テストステロン以外にアンドロステンジオン*、DHEA−s*などの男性ホルモンも高値になるので、これも測定することがあります。また、テストステロンがどの程度、活性を持った状態であるかを確認するためにSHBG*という検査を行うこともあります。また、普通LHはFSHより低いのですが、これが逆転してLHの方が高くなります。こうしたホルモン値の変化がどうして起こるのか、まだよく判っていません。

 もちろん、稀発月経や無月経は大事な所見です。不妊であるかどうかに関係なく、基礎体温の記録をお願いすることがあります。

糖負荷試験をするように言われたのですが、必要ですか?

 糖負荷試験というのは、甘いお水を飲んでもらってその前、その後2−3時間定期的に採血をし血糖やインスリンの推移を調べる検査です。インスリン抵抗性を調べる検査として説明されるかも知れません。

 糖負荷試験(あるいはインスリン抵抗性)の検査は、PCOSの診断や治療方針を決める上で必須の検査ではありません。

 しかし、PCOSがあってしかも肥満傾向のある患者さんは、メタボリック・シンドロームmetabolic syndrome(すこし概念は異なりますがシンドロームX syndrome Xと呼ばれることもあります。やや難しい話ですが、インスリン抵抗性の考えをさらに心血管系の合併症の発生を中心に捉えた疾患概念です)が背景にあることがあります。また、肥満がない場合でも、特に家系(お父さんお母さんやおじいさんおばあさんなど)に糖尿病の方がおられる場合は、インスリン抵抗性がある可能性があります。

 このようにPCOSの患者さんは、月経不順や不妊だけではなく、将来の心血管系のいわゆる生活習慣病を発症するハイリスク群と考えられています。

 糖負荷試験(あるいはインスリン抵抗性の検査)をするように言われたのであれば、受けられるようお勧めします。

多嚢胞性卵巣症候群と言われました。不妊ですが、どんな治療法があるのですか?

 残念ながら、PCOはその原因が判っていません。このため、根本的な治療法もありません。不妊で多嚢胞性卵巣症候群と言われたのであれば、排卵障害が原因になっている可能性があります。このため右図のような排卵のための治療法が選択されます。

 肥満がある場合は、食事療法や運動療法で徐々に体重をコントロールすることが有効です。有効であることが証明されていますし、費用はかかりません。急に体重を落とすことさえなければ、さしたる副作用もありません。

 肥満がない場合や、なかなか肥満が改善しない場合、肥満が改善したがやはり排卵しないような場合は、排卵誘発剤を用います。

 一般的にまず用いられるのはクロミフェンです。内服の排卵誘発剤です。妊娠した場合多胎の頻度はやや増えますが、卵巣過剰刺激症候群が起こることはまずありません。 

 最近、注目されているのはメトフォルミンという経口の糖尿病薬です。インスリン抵抗性を改善する作用があります。欧米ではPCOSに広く使われており、日本でも次第に使われるようになってきています。一般的にはメトフォルミンとクロミフェンを併用します。

 メトフォルミンの添付文書には、重篤な副作用として低血糖と乳酸アシドーシスがあげられています。しかし、低血糖はまず起こらないことが分かっています。また、乳酸アシドーシスも、腎臓の病気など重篤な病気がなければまず起こりません。むしろ一般的な副作用として半数の方に下痢が、4人に1人の方に嘔気・嘔吐が起こります。徐々に服用量を増加させれば起こりにくくなります。

 添付文書にはメトフォルミンの1日服用量が750mgまでとなっていますが、この量では足らず、1500-2000mgは必要と考えられています。また、妊娠中は禁忌とされていますが、母児に悪影響があったという報告はありません。むしろ自然流産を減らすのではないか、妊娠糖尿病の予防になるのではないかという期待があります。

 いずれにしても、添付文書から見ればPCOSにメトフォルミンを使うのは、適応の点でも、投与量の点でも、場合によっては妊娠してからも投与する点から考えても、いわゆる「適応外使用」になります。担当医から十分に説明を聞いて納得して使われることが大切です。

クロミフェンやメトフォルミン以外に、HMGという注射による排卵誘発(多胎の可能性が高くなります)、卵巣に小さな穴を開ける卵巣drilling、そして体外受精などの治療法があります。

それそれの違いを、担当医から十分に説明を受け、よく理解してから治療法を選択してください。

排卵誘発剤を使うと、卵巣が腫れたり、腹水がたまってしまうと聞いたのですが?

  多嚢胞性卵巣症候群では、卵巣には排卵できない卵胞がたくさんあります。排卵誘発を行うとこれらの卵胞が全部刺激され卵胞が巨大に腫れ上がってしまうことがあります。卵巣が大きくなりすぎてしまうだけではなく、腹水や胸水(胸に水がたまってしまう)がたまって呼吸困難になることもあります。また、多胎妊娠(双子や三つ子など)の原因にもなります。

  こうした卵巣過剰刺激症候群が起こることを防止することはできません。起こってしまった時は、入院して治療が必要になることがあります。排卵誘発をしていて、スカートがきつくなったり、尿量が減ったり、行き苦しくなった場合は、すぐ病院に連絡していただく必要があります。

子宮体癌になりやすいと聞いたのですが?

 PCOSで長期間稀発月経や無月経になると、エストロゲンとプロゲステロンのバランスが崩れるために、子宮体癌になりやすくなります。大切なことは、月経不順や無月経を放置しないことです。長い間放置すると子宮体癌になりやすくなります。

生活習慣病になりやすいと聞いたのですが、大丈夫ですか?

 その通りです。特に肥満や家系に糖尿病の方がおられる場合は、危険性が高くなります。
まだ未婚で、不妊ではないから治療は必要ありませんか?

  妊娠を希望しておられない場合は、カウフマン療法というホルモン治療を行う場合があります。月経不順と程度や多毛、ざ瘡の有無によって、治療は異なります。担当医とよくご相談ください。