不妊治療へのチャレンジ
病院に受診する
不妊の原因
不妊症の検査
不妊症の治療
不妊治療とストレス、不妊カウンセリング
病院に受診する
病院に受診するのはいつ?

若い方(およそ<35歳)で2年間子どもができない場合、それ以上の方では1年間子どもができない場合は受診された方がいいでしょう。

そのほか、1)月経不順の方、無月経がある方、2)子宮筋腫や卵巣嚢腫が現在あったり、手術を受けたことがある方、3)子宮外妊娠の経験がある方、4)性行為感染症に罹患したことがある方、5)性交渉がうまくいかない方などは早目に受診されたほうがよいでしょう。

夫婦で受診した方がいいの?


最初は1人で受診されて構いません。しかし、病院の診療の様子はいつもパートナーにお話ください。また、不妊学級や体外受精学級などがある場合は夫婦で受講されるようお勧めします。

不妊治療を行っていますと、しばしばご夫婦の子どもに対する「温度差」が気になります。つまり、子どもが欲しいという思いが二人同程度とは限らないということです。女性の側が熱心なことも、その逆もあります。しかし、常に受診しているのが女性である以上、この温度差の影響を受けるのは女性だけになってしまうことがしばしばあります。不妊治療を受けることによって温度差を拡大させないためにも、夫婦の話し合いが大切です。

夫婦で共通の話し合いができるように、時には夫婦でそろって病院に受診されることも大切です。特に治療の変わり目には一緒に受診されるようお勧めします。


基礎体温表のつけ方は?

病院に受診されるときは基礎体温を2-3か月つけてからの方がよいとよく言われますね。その通りで、下に書いたような注意を守って記録して頂いた基礎体温は、たくさんの貴重な情報を含んでいます。

基礎体温は朝目がさめた時、布団から出る前に測定していただく体温で、婦人体温計(昔からの水銀婦人体温計で記録し、紙に書くのがお勧めです。電子体温計も、体温計と記録計が一体型のものもお勧めできません)で毎日測定します。記録用紙は市販されてもいます。また、外来で有料もしくは無料でお渡しするところもあります。
基礎体温表には、体温の他、月経、おりもの、性交渉、検査や治療の種類等について記載してください。正確に記録された基礎体温表から得られる情報は、いくつもの検査に匹敵するぐらい重要であるばかりではなく、検査や治療の方針を決める上でも欠かせません。

次のような点に注意して記録してください。

1)月経周期:月経開始日を第1日とし、次の月経開始日前日まで何日目かを記載します。これが28日の場合は28日型の月経といいます。

2)性交渉のあった日:タイムリーに性交渉が行われているか否かも重要なポイントです。また、妊娠された場合予定日を正確に出す上でも欠かせません。

3)おりもの:排卵の前には、粘稠性の高いおりものが増えます。

4)検査や治療の種類:排卵誘発のための注射や服用をした場合、特別な検査を受けた場合は記載しておきましょう。薬の名前は聞いて書いておきましょう。
不妊の原因
不妊の原因はよく判らないことが多い

どうして不妊なんでしょう、どうして妊娠しないんでしょうとよく聞かれます。これに対して医師から「黄体機能不全が原因」「精子数が少ないのが原因」「子宮内膜症が原因」「卵子と精子が出会えないのが原因」等という説明を受けたと聞くこともしばしばあります。

しかし、不妊の原因はそんなに簡単にわかるのでしょうか。

私は不妊の原因で明らかなものは、「全く排卵していない」「両側の卵管が閉鎖している」「全くの無精子症」だけであると思います。これを「絶対不妊」(あまりいい呼び方ではないですね、ごめんなさい)と呼ぶと、一度も妊娠したことがない方の場合でも、一度は妊娠したことがある方の場合でも、絶対不妊の頻度は10-15%程度に過ぎません(下の図を参照してください)。

子宮内膜症にしても、時折起こる排卵障害にしても、本当にそれが不妊の原因かどうか判りません。子宮内膜症を治療しても、毎回排卵が起こるようになっても、やはり子どもができないことはよくあることです。つまり、子宮内膜症や無排卵は不妊の原因ではなかったのかも知れません。

 
不妊でなくても、一般に妊娠率はかなり低い

下の図は、Zinamanというひとがまとめた妊娠率についてのデータです。健康なカップルがタイムリーな性交渉を持った場合、1年間にどのぐらい妊娠するか(これを1年間の累積妊娠率といいます)を示したものです。グリーンの折れ線グラフは、毎月の妊娠率を示しています。

若い健康な二人が排卵ぴったりの日に、性交渉をはじめて持ったとしても(あるいは2回目程度までは)、妊娠率は30%にすぎません。その後は、妊娠率がどんどん下がって1年もすれば3-5%程度になってしまうのです。

つまり、若い健康なカップルが排卵日ぴったりに性交渉を持っても、妊娠率はよくて30%で、回数を重ねる毎に妊娠率はどんどん低下するということが判ります。

また1年間の累積妊娠率は200カップルのうち160カップルで、ちゃんと性交渉を持っていても40カップルもが妊娠しないのです。しかもこのカップル達は不妊の原因があるわけではありません。なぜ、40カップルが妊娠しないのか、その理由はわかりません。

きちんと性交渉を持っているのに妊娠しないのには、もちろんはっきりした原因がある場合もあるし、将来研究が進めばわかってくるような原因によることもあるし、ただ確率の巡り合わせによることもあるのです。

健康な200カップルが適切なタイミングで性交渉を持った場合の毎月の妊娠率(グリーンの折れ線グラフ)と累積妊娠率(ピンクの棒グラフ)を示しています。


もちろん不妊の原因になりそうな要因もあります

間違いなく不妊になるのは、卵管が両方閉鎖している場合か、全く排卵していない場合か、あるいは全く精子がいない場合です。それ以外に、妊娠率を下げるかも知れないが、本当に不妊の原因かどうかよく判らないという要因もあります。下の図には、絶対的な不妊の要因と、妊娠率低下の要因の両方を示してあります。例えば、子宮筋腫は妊娠率を低下させることがある(大きさや位置によって異なります)のが判っていますが、筋腫があったらみんな不妊になるわけでも、妊娠率が低下するわけでもありません。

不妊の原因になるかどうか明らかでなくても、他に不妊の原因がない場合は治療を勧められることがあります。例えば、子宮内膜症による3-4cm程度のチョコレート嚢腫があるが、他に不妊の原因がない場合は、腹腔鏡という内視鏡による手術を勧められるでしょう。

不妊症の検査

一通りの検査は2-3か月で済みます


不妊の原因を調べる検査には、下の図のようなものがあります。このうち基本的な検査は、基礎体温の記録、性交後試験、精液検査、超音波検査、子宮卵管造影検査です。この他、排卵直前の頚管粘液検査、月経3日目のホルモン基礎値の検査や抗精子抗体検査を基本検査に加える病院もあります。

基本検査の位置づけは病院や国によっても異なります。性交後試験や抗精子抗体検査を基本検査に加えないところもあります。私自身は子宮内膜ポリープなども診断されるので子宮鏡検査も行います。

この他、初診時に子宮頚がん検査や風疹の抗体価検査、クラミジアの検査などを行うこともあります。

いずれにしても、基本的な検査は2-3か月で終わります。




不妊症の検査は月経の特定の時期に行います

不妊症の検査は、下図のように月経の特定の時期に行います。

検査中も避妊する必要はありません。避妊する必要がある場合は担当医がその旨、教えてくれます。

ホルモン基礎値は値が安定している月経3日目(あるいはその周辺)に、子宮卵管造影や子宮鏡検査は妊娠の可能性がない月経後排卵前の時期に、黄体機能検査は高温相の中頃に行います。卵胞の発育を確認するのは排卵の少し前です。




性交後試験でよくない結果が出たら、まず行うのは再検査です


射精された精子は子宮頚管から子宮内に入って卵管に到達します。性交後試験というのは、ヒューナーHuhner検査ともよばれ、普通に性交渉をもってもらった翌日、子宮頚管粘液内にある精子の動きを見る検査です。つまり、子宮頚管内を精子が遡上できるかどうか調べる検査というわけです。

性交後試験の検査結果は頚管粘液の状態に影響されます。つまり、排卵の直前でなければよい結果は得られません。

このためにこの検査の結果がよくなくても直ちに落胆する必要はありません。まずは再検査、あるいは再々検査を受けることです。

続けて検査結果がよくない場合は、人工授精が勧められるかも知れません。人工授精は子宮の中に精子を入れるものなので、頚管粘液の部分に問題があってもそれをパスできるからです。


子宮卵管造影検査は、副作用がありますが、大切な検査です

子宮卵管造影は、痛い、感染が起こることがあると、あまり評判のよい検査ではありません。しかし、卵管の通過性だけではなく、子宮の形態も判ります。大変重要な不妊の基本的検査です。

検査に伴う痛みや感染の防止に、痛み止めや抗生物質が処方されます。

油性造影剤を使うと、この検査の後妊娠率が上がることが判っています。水性造影剤ではそうした効果がありません。

卵管通過性を調べるそのほかの検査として、通気試験や通水試験がありますが、信頼性が低くほとんど行われなくなりました。



選択的卵管造影検査は、子宮卵管造影検査の次のステップの検査です


選択的卵管造影は、腟の方から子宮の中の卵管の入り口(卵管角といいます)までカテーテルを進めて、卵管の入り口から造影剤を注入します。SSGとも呼ばれます。

通常の子宮卵管造影より少しよけいに時間がかかるのが難点ですが、子宮卵管造影より痛みが少ないことが多く、子宮卵管造影で閉鎖していた卵管がこの検査で通ることもあります。





精液検査はもっとも重要な基本検査の一つです

精液検査は、もっとも重要な基本検査です。この検査をしなくてもよいと考えている専門家はいません。

しかし、男性の中には、何やかやと理由をつけて精液検査を受けない方がおられます。男性のこけんに関わると考えておられるのかも知れません。しかし、二人で合意して不妊治療を始められたのであれば、精液検査だけ受けないのはルール違反と思います。

WHOによる精液検査の正常値は、右の通りです。




精液検査の正常値(WHO)

精液量: 2.0ml 以上

液化時間:60 分以内

pH: 7.2 以上

精子濃度: 1ml中に2000万個以上

総精子数:射精あたり4000万個以上

運動率:50% 以上、もしくは25%以上の元気のよい直進運動精子

白血球数:1ml中に100万個以下

正常形態精子の割合:30%か15%(検査法による)




超音波検査は、子宮筋腫や卵巣嚢腫、子宮内膜症、排卵の診断などに欠くことができない検査です


超音波検査は、産婦人科に受診すると必ずといってもいいほど受ける検査です。経腹法と経腟法がありますが、不妊の検査でもっぱら用いられるのは経腟超音波検査です。

不妊症の場合は、こんな点を調べています。

1)子宮や卵巣に子宮筋腫や卵巣腫瘍のようなできものができていないか。

2)子宮内膜は周期的に変化し、特に着床前には着床しやすいような条件が整っているか(着床期には8mm以上になることが多いです)。

3)卵胞は排卵に向けてきちんと大きくなり(排卵直前には卵胞の直径が20mmぐらいになります)、排卵しているか。また、タイミングや人工授精にいつが適当か、排卵日の予測。

4)超音波でみながら、超音波に映りやすい水を卵管に通して、卵管の通過性を調べる検査や、子宮内腔に水を入れて粘膜下筋腫の有無を調べる検査も行われます。


正常の子宮です 粘膜下筋腫が判ります
正常の卵巣です。左は月経直後で小さい卵胞がたくさん見えます。右はそのうち一つの卵胞が大きくなってきたものでこれを主席卵胞と呼びます 8cmの子宮内膜症によるチョコレート嚢胞です
不妊症の治療


不妊症の治療は、一般不妊治療と補助生殖医療に分けて考えることができます

体外受精が世界ではじめて実施されて以来、25年がたちました。体外受精が登場して以降に開発された、卵子や精子を直接操作する医療技術をART(assisted reproductive technology:補助生殖医療)と呼びます。

これに対して、排卵誘発剤を使ったり、閉鎖した卵管に対して手術をしたり、人工授精をするような昔からある治療法は一般不妊治療と呼ばれます。

今は、体外受精の時代、みんな体外受精を受けているんだろうと思われるかも知れません。私自身のデータでは、不妊で100組が受診されたとすると、55組が一般不妊治療で妊娠します。また、15組がARTで妊娠します。残りの30組は妊娠を断念されたり、受診されなくなって経過が追えなくなります。

今でも、そしてこれからもおそらくずっと、ARTより一般不妊治療のほうが主流であることを忘れないで頂きたいです。




不妊症の治療は、見つかった原因を治療する方法と、妊娠率を上げる工夫をする方法にも分けられます


不妊症の治療は、『原因を見つけてそれを治療する方法』と『妊娠率をあげる工夫をする方法』にも分けられます。

『原因を見つけてそれを治療する方法』には、排卵障害に対する排卵誘発剤の使用、子宮筋腫に対する子宮筋腫核出術、卵管閉鎖に対する卵管形成術(顕微鏡下に行うのでマイクロサージェリーと呼ばれます)などがあります。

これに対して『妊娠率をあげる工夫をする方法』は、ステップアップ法とも呼ばれ、例えばタイミング(排卵の時期を検査で推測しそれに併せて性交渉を持ってもらう)をしばらく行い、妊娠しなければ人工授精を行い、これでも妊娠しなければ排卵誘発と人工授精を同時に行います。さらにこれでも妊娠しない場合は体外受精をやるという方法です。

だいたい一つの治療法を4-5周期もやっていると、下図のように次第に妊娠率が低下します。そこで次の方法を試みてみるというのがステップアップ法です。

ステップアップ法は科学的データに基づいた合理的な治療法です。また、不妊の原因が明らかでないというカップルも多いので、多くのカップルが対象になる治療法です。

しかし、カップルはステップアップ法で「ベルトコンベアに乗ったような気分」を味わいやすいことも事実です。

治療の開始時はもちろん治療法を変更する場合は、できればご夫婦で病院に出かけられて、二人でよく話し合い納得してから治療をスタートしましょう。




不妊治療とストレス、不妊カウンセリング

不妊治療はストレスが大きい

不妊治療は、とてもストレスが大きい治療です。明るく前向きに治療を受けられるカップルも多いのですが、下記のようなことを話されるカップルも少なくありません。

患者さん自身から私が言われたことをメモしたのが、以下のような言葉です。

子どもをつくらなければ一人前でないと言われた/自分の居場所がない/周囲からの『同情』に傷つく/孤独感/夫婦の波長のずれを感じる/友人が去っていく/渦の中に巻き込まれた/麻薬中毒のよう/罪悪感/虚無感/とらえどころのない怒り/不公平感/診察時の屈辱感/情報不足/失望/焦り/孵卵器になったような感覚/ベルトコンベアに乗っている/基礎体温と月経のストレス/寝られない/仕事が手につかない/病院にきていれば『安心』 /通院はアリバイ作り

不妊治療はよく『出口が見えないトンネル』にたとえられます。不安感がどんどん大きくなる可能性があります。

これを解決する方法は、カップルで十分に話し合うことと、医療者から十分な説明を受けることしかないと思います。



何が問題なのでしょうか

補助生殖医療のような『高度生殖医療』は、技術が複雑でわかりにくい、保険が使えない(治療費が高額である)、性交渉や妊娠のような個人的なこと(プライバシー)が人の手に委ねられるといった特徴があります。また、子どもが必ずできるような誤解を与えやすい側面もあります。

また、治療に必要な医療機器や薬品が高度化、ディスポーザブル化し、大変高価です。また、表面に表れる成績だけが競われるために、必ずしも正確な情報が公開されません。

さらに、世の中には「子どもを産んで初めて一人前」という考え方が強いのも事実です。「子どもができない」ことよりも、「不妊であること」そのものに心理的圧迫を感じるカップルも少なくないようです。



不妊治療と不妊カウンセリングの目標

私は不妊治療の目的は以下のようなことだと考えています。

1)健康な子どもの出産が目標です。
  妊娠率が高く、流早産が少ない治療法の開発と応用。その治療法は同時に、子宮外妊娠が少なく、先天異常の原因とならないものでなければなりません。

2)不妊に伴う不安や抑欝を減少させることも不妊治療の大切な目標です。
  そのためには、副作用が少なく、費用がかからない、不安を引き起こさない、そしてできるだけ自然な妊娠を目指す治療法が求められます。医療者による十分な説明が必要なことは言うまでもありません。

3)また、もし治療がうまくいかなかったり不可能な場合は、子どもがいなくてもすばらしい人生がおくれることを感じることができるような治療でなければなりません。

こうした目標を達成するためには、治療技術の向上と同時に、カップルの気持ちや悩みの視点に立ったソフト面からのアプローチが重要と考えています。



不妊カウンセラーや体外受精コーディネイターを相談相手にしよう

カップルの気持や悩みの視点に立った情報提供やカウンセリングあるいは不妊治療におけるケアが可能なように、2002年日本不妊カウンセリング学会が設立されました。私もその会員の一人です。日本不妊カウンセリング学会のホームページには不妊カウンセラーや体外受精コーディネイターの連絡先が公開されています。参考にして頂ければと思います。