習慣流産へのチャレンジ

流産とは?

 
妊娠21週までに、何らかの原因で妊娠が終了してしまうことをいいます。自然流産と人工流産(人工妊娠中絶)に分けられますが、自然流産は全妊娠の約15%におこり、そのうちのほとんどは妊娠11週までにおこります。


流産の原因


妊娠11週頃までの初期流産の原因は、約70%が胎児の染色体異常によるものです(右の図をご覧ください)。染色体異常が胎児の異常の全てというわけではありませんから、自然流産をする胎児の少なくとも70%には胎児自身に異常があるということができます。これはひょっとすると100%に近いのかも知れません。一種の自然淘汰と考えられ、予防することも治療することも現在の医学では無理です。

女性の年齢が高くなるほど流産率が上昇しますが、これは女性の年齢とともに受精卵の染色体異常頻度が高くなることと関係します。

その他の原因として、子宮奇形などの子宮の形態異常、卵巣や甲状腺などのホルモン分泌異常、自己免疫疾患、細菌感染などでも流産がおこることがあります。二度三度と流産を繰り返す(習慣流産)ようであれば、このような異常がないかを系統的に検査した方がよいでしょう。

妊娠中期になると流産の頻度は大きく減少します.。この時期には、子宮の入り口が自然に開いて流産することがあり、これは頚管無力症と呼ばれます。

いろいろ書きましたが、胎児の染色体異常をのぞけば、実際のところ原因不明としか言い様がないことが多いのです。

流産の症状


流産の症状には子宮出血や下腹部痛があります。しかし、出血や下腹部痛があっても(切迫流産といいます)、流産になるとは限りません。切迫流産でも、赤ちゃんの心拍が確認できれば多くは妊娠を継続することができます。

逆に、全く無症状でも、超音波検査で流産と診断されることもしばしばあります。

流産は、はじめは子宮出血や下腹部痛がないか、あっても軽度ですが、次第に強くなり、いずれ子宮内の妊娠組織は子宮外に出てきます。妊娠組織とは、胎児と臍帯、絨毛(妊娠中期以後は胎盤と呼びます)などの胎児由来の組織と、脱落膜という子宮内膜が変化した母親由来の組織とがあります。

妊娠組織がほぼ完全にでれば、子宮内容除去術(掻爬:そうは)は必要ありませんが、一部が残ってしまったような場合や、稽留流産と呼ばれる状態の場合は子宮内容除去術が必要です。

切迫流産の治療


流産の進行を食い止めるような治療法として確立された方法はありません。切迫流産の治療に認可されている薬剤もありますが、有効性は証明されていません。実は私も薬物療法を行うことがあるのですが、患者さんには効かない可能性を説明してから使います。

入院や安静も有効とは考えられていません。強いて運動する必要はありませんが、普段と同じ生活で構いません。

有効な治療法がないので、妊娠初期に少し出血したからといって病院に駆けつける必要はありません。
 夜間、休日など緊急で病院を受診する目安としては、月経のピーク時と同じくらい、あるいはそれ以上の出血や強い下腹部痛があるときと考えてください。

進行流産や稽留流産、不全流産の治療


切迫流産の治療法はありませんが、流産してしまった場合は、前述のように子宮内容除去術が必要になることがあります。子宮内容除去術は5〜10分程度で終わります。麻酔が必要です。

なお、出血が増え流産が進行している状態を進行流産、発育していない胎児が確認できるが一向に流産がはじまらない状態を稽留流産、一部の妊娠組織だけが子宮外にでてしまった状態を不全流産と呼びます。


流産後について


もともと月経が順調に来ていた方は、流産後1〜2か月以内に月経が再開します。流産後は月経が2回程度来てから、あらたな妊娠を試みるようにします。


習慣流産かしら?


何回も流産することを習慣流産とか反復流産と呼びます。

日本産科婦人科学会は連続した3回以上の自然流産を習慣流産と呼んでいます。アメリカ産婦人科学会(ACOG)は、2回以上連続した自然流産を習慣流産として検査したり治療する対象にしています。

何回程度流産したら検査した方がいいのか、分娩したことがあれば検査しなくていいのか、問題ですね。

例えば、1回目の妊娠は流産し、2回目は分娩、3回目、4回目はまた流産したような場合、どうすればいいのでしょうか。私は、検査を受けられるようお勧めしています。

それは、私自身のデータで、分娩の有無に関係なく、2回流産の既往があるとおよそ4%、3回流産の既往があるとおよ7%のカップルの男女いずれかに染色体異常が見つかるからです(右の図を参照してください)。

しかし、たとえ3回連続して流産したとしても、カップルに何か原因があるのだと考える必要はありません。

一般に15%の方が流産をするとして、前述したようにその70%の胎児に染色体異常があるということは、15%の70%、つまりすべての妊娠した胎児の10%に染色体異常があることになります。そしてこの染色体異常はたまたま起こっている(偶然起こっている)ものです。2回続けて(たまたま)染色体異常のある胎児を妊娠しそのために流産するカップルは1%、3回続けて染色体異常の胎児を妊娠しそのために流産するカップルは0.1%はいることになります。つまり、2回あるいは3回流産をしたから夫婦のいずれかに何か原因があるという訳ではないことが多いのです。

実際、3回流産したカップルを調べてみても、染色体異常、抗リン脂質抗体、子宮の先天的な異常など比較的はっきりした異常が見つかるのは15%ぐらいのカップルにすぎません。

何回の自然流産で検査や治療を開始すべきかは、このように医師によって考えが異なります。カップルによっても捉え方が異なるでしょう。担当医とよく相談していただく必要があります。

流産というのはとても悲しい体験です。カップルに大きい心の傷を残します。さまざまの対応法がありますが、私自身は流産についての正しい知識を知って理解して頂くことが基本になると考えています。

今までに2回流産をした方の次の妊娠が流産しないで継続する率は約75%、3回流産した方の場合は55%です(右の表を参照してください)。このように流産を反復したことがあっても、半数以上の方の妊娠は継続します。検査によってカップルに何らかの原因が見つかることは少ないのですが、原因がみつかり治療できれば、妊娠が継続できる可能性がより高くなります。2回流産したような場合は、どちらかといえば、検査を受けられた方がよいのではないかと考えています。




























習慣流産の検査


1) 
一般血液検査


妊娠に影響するような大きな全身的な病気がないかを調べます。


2)カップルの染色体検査

血液で調べます。均衡型転座染色体異常というのがあると、子供がそのために異常になり流産することがあります。4%(2回流産歴の場合)から7%(3回流産歴の場合)のカップルに均衡型転座染色体異常がみつかります。

3)甲状腺機能の検査

血液で検査をします。習慣流産との関係は低いと考えられています。

4)糖代謝の検査

後に述べる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の中には糖代謝の異常が関係しているものがあるのではないかと考えられています。そして多嚢胞性卵巣症候群は流産に関係するのではないかといわれています。糖代謝の異常と流産の関係はよく分かっていませんが、妊娠の経過には大きな影響を与えるので検査を行っています。糖負荷試験といって、ブドウ糖を飲んで、その前後で何回か採血をして、血糖やインスリンの変動をみます。習慣流産の検査としては不必要なのではないかとする考えがあります。

5)異常な抗体の検査

異常な抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなど抗リン脂質抗体と呼ばれるもの)があると、そのために流産します。

6)感染症の検査


妊娠に関係する感染症の検査を血液や腟内細菌検査で行っています。習慣流産との関係は低いと考えられています。

7)卵巣機能検査

黄体ホルモンの働きが少ない場合(黄体機能不全)は、うまく着床できず、流産がおこることがあるとされますが、否定的な考えもあります。また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と呼ばれる状態があると流産しやすくなります。

基礎体温をつけて頂き、月経3日目に採血の検査を行っています。
黄体機能を調べるために、超音波検査や採血の検査を周期中に何回か行います。

8)子宮の形をみる検査

子宮の内腔に中隔子宮や双角子宮といわれる子宮奇形があると流産しやすくなると考えられています。子宮の形をみる検査として超音波検査と子宮鏡検査が行われています(右の図を参照してください)。子宮鏡検査は細いファイバースコープで子宮内腔を直接観察する検査です。この検査で問題がある場合には、子宮卵管造影法を行うこともあります。

むかしは、夫婦間の「相性」を調べるためにHLA検査や女性のパートナーに対する抗体検査を行っていました。私自身も行っていました。しかし現在では習慣性流産の検査としては意味がない検査と考えられています。

習慣流産の治療



習慣流産の検査で異常が見つかった場合は、それに応じた治療を行います。

カップルに何も異常が見つからないとかえって不安になってしまうことがあります。気持ちは分かりますが、何も異常が見つからなかった、流産はたまたまのものであった可能性が高いと考えて前向きに次の妊娠にチャレンジして頂きたいと思います。特に女性が40才近くだったりそれを越えている場合は、流産の原因として年齢が関与している可能性が高くなります。チャレンジすることが治療につながる可能性が高いと考えて前向きに対応して頂きたいと思います。

1)カップルの染色体異常について

2回流産をしたカップルのおよそ4%、3回以上流産をしたカップルのおよそ約7%にカップルのいずれかに衡転座型染色体異常がみつかります。

均衡型転座染色体異常とは、染色体の一部が他の染色体の一部と入れ替わった(これを転座と呼びます)染色体異常です。ご本人は染色体部分の過不足がないため、均衡型転座染色体異常があっても異常はみられません。しかし、子どもさんには染色体部分の過不足が起こることがあります。

ご夫婦のどちらかに均衡型転座染色体異常があると、染色体正常、ご夫婦と同じ均衡型転座染色体異常、染色体の一部に過不足のある不均衡型転座染色体異常のいずれかの子どもを妊娠することになります。不均衡型転座染色体異常のある受精卵は育ちにくく、妊娠とわからない時期に消滅してしまったり、自然流産になったりします。生まれた子どもさんに奇形や発育障害、精神運動発達遅滞などの異常がみられることもあります。しかし、健康な子供さんを得る可能性が半分(50%)以下になることは、まずありません。

習慣流産のために均衡型転座染色体異常がみつかったカップルで、自然流産に至らずに妊娠が継続した場合、不均衡型染色体異常がある子どもさんが出産する率は5%前後とあまり高率ではありません。不均衡型転座染色体異常はそのものの治療は不可能です。妊娠が継続した場合にご希望があれば、絨毛検査や羊水検査を行うことが可能です。担当医とご相談下さい。


2)甲状腺機能の異常に対する治療

甲状腺機能の異常が認められた場合には、基本的には甲状腺の治療を専門とする内科で治療を受けることになります。薬物療法が行われます。妊娠に安全な薬物療法があります。

3)糖代謝の異常や糖尿病の治療

主として内科で治療を受けることになります。生活指導や食事療法、薬物療法が行われます。多嚢胞性卵巣症候群に最近用いられるようになったメトフォルミンという薬剤は、インスリン抵抗性改善薬(糖尿病治療薬の一つ)です。

4)異常な抗体に対する治療

抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなどの異常抗体)が高値のときには、そのために胎盤の血管が障害されて流産になることがあります。抗リン脂質抗体というのは自己抗体の一種です。

胎盤の血管が障害されると、血液が凝固し、胎盤への血流が少なくなります。このため子どもが育たなくなり、お腹の中で赤ちゃんが亡くなると考えられています。

血液が凝固しないように、アスピリン(低用量)やヘパリンといった薬を投与します。異常抗体そのものを減少させるために、プレドニンという副腎皮質ホルモンを投与することもあります。


また、異常抗体が極めて高値の場合には、膠原病という病気がかくされている場合もありますので、この場合には専門の内科医に受診していただいています。

5)卵巣機能異常の治療

黄体機能不全や多嚢性卵巣症候群(PCOS)では流産が多いとされています。


黄体は、排卵後の卵胞(卵をいれている袋)からつくられるため、黄体機能不全は卵胞の発育が悪い方に多くみられます。このために排卵誘発剤(クロミッドなど)や黄体ホルモンを投与します。しかし、黄体機能不全がどの程度流産に関係するかははっきり分かっていませんし、あまり関係ないのではないかとする意見もあります。

これに対して多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方で流産が多いというのは多くの専門家で意見が一致するところです。多嚢胞性卵巣症候群というのは、卵巣に卵胞が多くみられるものの、発育が悪かったり、排卵しないことが多いため、無排卵や月経不順になる病気です。原因はよく分かっていません。排卵がうまくいかない場合は、排卵誘発剤(クロミフェンや注射の排卵誘発剤)を使います。

最近、この多嚢胞性卵巣症候群にメトフォルミンというインスリン抵抗性改善薬(糖尿病治療薬の一つ)が有効なのではと考えられるようになり、欧米では広く治療に用いられるようになってきました。まだ確定的ではありませんが、流産の頻度も減らす可能性が報告されています。多嚢胞性卵巣症候群と診断され流産を繰り返している場合は、十分な説明を受けた上でメトフォルミンによる治療を受けられた方がよい可能性があります。内分泌疾患に詳しい産婦人科医とご相談ください。

7)子宮奇形

双角子宮、中隔子宮は流産の原因となります(双角子宮や中隔子宮があると必ず流産するということではありません)。このため、手術療法が行われます。

双角子宮では開腹して子宮の形を形成する手術を行います。ストラスマン手術と呼ばれます。

中隔子宮では、子宮鏡で中隔を直接みながら切断します(子宮鏡下手術)。 中隔子宮か双角子宮かを腹腔鏡で見て診断した上で、開腹手術にするか子宮鏡下手術にするかを決めるので、そのまま腹腔鏡で見ながら子宮鏡下手術を行うことがほとんどです。

子宮奇形の手術は、産婦人科なら誰でもできるわけではなく専門的な知識が必要です。専門の産婦人科医にご相談ください。

8)頚管無力症

妊娠中期以降の自然流産の場合、子宮の入り口付近の<しまり>が悪いために流産を反復することがあります。これを頚管無力症といいます。頚管無力症では、妊娠中に子宮頚管(子宮の入口)をしばる手術(頚管縫縮術)を行います。しかし、頚管縫縮術をしたにもかかわらず、子宮の入口が開いてきたり、破水したりすることもあります。また、手術時に破水することもあります。手術を行うかどうかはかかりつけの医師とよく相談をする必要があります。

頚管無力症についてはこの下に詳しく書いてありますので参考にしてください。


頸管無力症とは?


妊娠した子宮は大きな風船を逆さにしたようなもので、中には数kgの赤ちゃんと羊水が入っています。風船の入り口にあたるところが子宮頸管で、この部分で赤ちゃんや羊水の入った袋をささえています。この部分が弱くなって、妊娠中にお腹がはることがなくても子宮口が開いてくる病気が頸管無力症です。 

流産や早産の原因になります。

頚管無力症そのものの概念や診断法・治療法については未だ議論の多いのが現状です。

前回頸管無力症であった方、子宮頚部円錐切除術後の方、子宮奇形のある方、何度も人工妊娠中絶をしている方などが頸管無力症になりやすいともいわれていますが、はっきりとはしていません。

頸管無力症の症状


流産や早産がはじまるまで、多くの場合無症状ですが、下腹部や腰のなんとなく重い感じや水っぽいおりものなどあることもあります。

頸管無力症の診断


妊娠前や妊娠初期に診断することはできません。流産や早産になるまで診断できないこともあります。妊娠半ばに下腹部や腰のなんとなく重い感じや水っぽいおりものがある場合、内診や超音波検査で、頚管の形状や開きぐあいなどを検査して診断します。

頸管無力症の治療

頸管縫縮術という子宮の入り口をテープでしばる方法があります。