手術のFAQ
FAQというのはFrequently Asked Questionsの略です。つまり、ここでは外来などでしばしば質問されることについてお答えします。書かれているのは私の意見なので、異なる意見があり得ることはご理解ください。
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手術の種類と選択
Q:手術の話は怖いので、自分では聞きたくありません。自分は席を外し、家族に聞いてもらっても構いませんか?
Q:妻が手術を勧められているようです。主治医から妻には言えないことがあるかも知れないので、内緒で自分だけで話を聞きたいのですが。
Q:腹腔鏡で手術する方法と開腹してする方法があると言われました。どちらがいいですか?
Q:大きな卵巣腫瘍といわれました。薬では治らないのですか?
入院と手術の経過

Q:手術には家族が立ち会わないといけないのですか?
Q:手術は何人ぐらいでするのですか?
Q:手術は何時間ぐらいかかりますか。
Q:太っていますが、手術は大丈夫ですか?
Q:入院してから風邪をひいたみたいです。熱がありますが、大丈夫ですか?
Q:生理中ですが 、大丈夫ですか?
Q:手術後何ヶ月ぐらいたったら妊娠してかまいませんか?
麻酔
Q:どんな麻酔で手術するのですか?
輸血、自己血輸血、特定生物由来製品
Q:輸血が必要かも知れないと言われました。必要ですか?
Q:自己血輸血を勧められました。自己血輸血ってなんですか?
Q:特定生物由来製剤を使うかも知れないと言われました。特定生物由来製剤というのはなんですか?
手術の傷
Q:お腹を横に切って欲しいのですが?
Q:ケロイドができやすい体質です。大丈夫でしょうか?
Q:傷口が盛り上がりやすい体質なのですが、自分でできる対策はありますか?
合併症、副作用
Q:開腹手術を受けた場合、どんな合併症や副作用が予測されますか?
Q:手術をすると癒着が起こる可能性があるといわれました。癒着というのは何ですか?
Q:子宮全摘術を予定しています。更年期障害になるのではないかと心配です。

手術の種類と選択

Q:手術の話は怖いので、自分では聞きたくありません。自分は席を外し、家族に聞いてもらっても構いませんか?


A:手術の説明を誰にするかは、手術を受けられるあなたが決めることですから、もちろんあなたが席を外して家族だけに聞いてもらっても構いません。

しかし、お勧めはできません。怖い気持ちも分かります。でも、自分の知らないところで手術が進められる方がもっと怖くはありませんか。怖いという一時的な気持も判りますが、おそらくきちんと説明を受けた方が、怖さは軽減されると思います。

手術では予期しないことが起こる可能性があります。そのときあなたは麻酔がかかって寝ているわけですから、執刀医が「あなたならこう希望されるだろう」ということを考えながら手術の方針を変更します。ですから、執刀医としては手術の前にあなたの気持ちや考えを十分に理解しておきたいのです。あなたに十分説明できないと、あなたの気持やお考えも執刀医に伝わらないことになります。

ですから、できるだけあなた自身に手術についてよく分かって欲しいと思っています。

Q:妻が手術を勧められているようです。主治医から妻には言えないことがあるかも知れないので、内緒で自分だけで話を聞きたいのですが。

A:手術を受けられる当事者の奥様には全てをお話ししています。たとえご主人であっても、奥様に内緒でお話しすることはできません。もちろんご心配だと思いますので、奥様と一緒においでください。


Q:腹腔鏡で手術する方法と開腹してする方法があると言われました。どちらがいいですか?

A:腹腔鏡というのは右上の二つの図のように、お臍の周辺に入れた内視鏡からのぞきながら(実際にはモニターといわれるテレビ画面に映し出して)、鉗子やはさみを使って手術をするものです。

これに対して、右下の図は開腹して手術を行っているところです。

どちらも、お腹の中の手術という意味で、開腹していることに変わりはありません。

しかし、大きな違いは腹壁の傷の大きさが違うという点です。もちろん腹腔鏡の方が小さく、したがって術後の痛みも少なく、早く退院ができます。さらに開腹した方が腸や子宮に触れることが多くなり、一般的に癒着も起こりやすくなります。

しかし、腹腔鏡では鉗子を使って手術をするために、細かい操作を素早くすることはできません。巨峰という果物があります。巨峰の皮を手でむくのはすぐできますね。でもナイフとフォークでむくとすれば大変です。開腹手術と腹腔鏡下手術はこれと同じような違いがあります。もちろん、腹腔鏡下手術の担当医はナイフとフォークで巨峰をむくような訓練はしています。それでもどんなにがんばっても、手でむいた方が早いだろうことはおわかりいただけると思います。つまり、細かい操作を素早くする必要がある場合は、開腹して行う方が安全かつ確実です。

当然のことですが、手術には安全性が求められます。また、たとえ話で申し訳ないのですが、車を運転している時を想像してください。周囲がよく見えているというのは安全運転に大切なことですね。見えている範囲を手術(医学)用語で『視野』といいます。腹腔鏡に比較して開腹した方が一般に視野はよいのです。また、腹腔鏡下手術では鉗子を介して操作するために、手で触ると判る『硬い』『軟らかい』といった触覚が判らなくなるのも欠点です。

卵巣がんの可能性がある卵巣腫瘍の場合も、腹腔鏡下手術はお勧めできません。腹腔鏡下手術では、嚢腫の内容物が手術中に漏れ出す可能性が大きいので、がん細胞をお腹の中にまいてしまう可能性があるからです。

このように、腹腔鏡下手術と開腹手術にはそれぞれ一長一短があります。それぞれの方の病状によって、この一長一短がどのような影響を及ぼすかは異なりますから、主治医とよく相談されることが大切です。

どちらでも同程度のメリットとリスクがあるのなら、腹腔鏡下手術を選択されたらどうでしょうか。やはり、傷は小さい方がいいし、術後の痛みも少ない方がいいからです。ただし、手術の安全性や確実性のために開腹する必要がある場合は、開腹することの同意は予めいただくことになります。



腹腔鏡の模式図


腹腔鏡で卵巣嚢腫を核出しているところ


開腹して手術をしているところ
Q:大きな卵巣腫瘍といわれました。薬では治らないのですか?

A:手術は誰も受けたくないですね。薬で治らないかというお気持ちは判りますが、残念ながら薬で卵巣腫瘍が治ったという報告はありません。


入院と手術の経過

Q:手術には家族が立ち会わないといけないのですか。

A:そんなことはありません。手術を受けられる方が十分な説明を受け同意をして頂ければ(インフォームド・コンセントと言います)手術を行うことはできます。

もちろん家族に立ち会って頂いても構いません。どうするかは手術を受けられるあなた自身が決めることです。家族にも説明をしたほうがよければ、その旨、主治医にお話ください。家族にも説明いたします。説明をする範囲(誰に説明をするか)もあなた自身が決めて頂いて構いません。あなただけであっても構いませんし、あなたの友人の方がよいのであればそれでも構いません。

ある程度の手術を行っている病院であれば、完全看護のことが多いので、術後自分で動けない場合でも、付き添いがいなくても構いません。


Q:手術は何人ぐらいでするのですか。


A:病院や手術の種類によって異なります。

私の病院の場合、一般的な開腹して行う子宮全摘術では、術者(執刀医)、第一助手(医師)、麻酔科医、器械だし看護師(滅菌された術衣を着て手術の器具などの補助を行う看護師)、外回り看護師(手術室の中で手術、麻酔器具などの補助を行う看護師)の5人が、手術中に手術室の中にいる最少の人員です。それ以外に、手術の第二助手、第三助手がいることも、複数の麻酔科医が担当することもあります。

これ以外に、手術室には、手術後の回復室(リカバリールームと呼ばれます)担当の医師、看護師、手術器具の準備や消毒の担当者、手術室の片づけや清掃、消毒の担当者、受付、家族のための担当者などがいます。

ある程度以上の病院になると、この他、手術室全体の流れを担当するものや、複雑な手術機器を管理、整備する専門家も働いています。

手術室というのは、実にたくさんの専門職の人たちが患者さんのためにチームワークを組んで働いているところです。


Q:手術は何時間ぐらいかかりますか。

A:予想される手術の時間は、術式(どんな手術をするか)でまずおよそ決まります。例えば、帝王切開なら1時間、開腹して行う子宮全摘術なら2時間、腹腔鏡下の卵巣嚢腫核出術だと1時間半程度、広汎性子宮全摘術なら5時間程度です。

さらに、病気の程度(例えば筋腫の大きさや個数、がんの進行度など)や患者さんの状態(肥満や癒着の程度など)に影響されます。

予想される具体的な手術時間は手術の前に個々に説明されます。ただし、お腹を開けたところ予想と違って、癒着がひどかったり、良性と考えていたところ悪性(癌)であったり、当初より悪性(癌)と言われていても予想より拡がっていたりすると時間が長くなることがあります。また、手術中に予期できないこと(合併症など)がおきて長くかかることもあります。

手術が終わるのを待つ間、家族の方は心配ですね。


Q:太っていますが、手術は大丈夫ですか?


A:太っていると脂肪の厚みのために手術をする部位が深くなり手術がやりにくくなります。このため手術時間が長くなり、傷も大きくなり、手術中のトラブルも増え、出血量も増加します。

また、手術後は厚い脂肪層のために傷が治りにくくなり、抜糸が遅れたり、抜糸後に傷が開くこともあります。また、太っている方には糖尿病や高血圧などの合併症が多いだけではなく、静脈血栓症が起こりやすく危険なことがあります。

しかし、手術が目前に迫ってからダイエットしても仕方がないですね。大切なことは、医師や看護師の指示に従って手術後の早い時期から体を動かすことです。こうすれば、静脈血栓症になりにくくなり、傷の回復も促進されます。安静にしていても傷がつきやすくなるわけではありません。



Q:入院してから風邪をひいたみたいです。熱がありますが、大丈夫ですか?


A:少しの風邪や熱では問題のないことも多いのですが、手術によって風邪や熱が悪化したり、手術後の経過に影響を及ぼすことがあります。このため場合によっては手術を延期することがあります。風邪をひいたり熱が出た場合には早めにご相談下さい。


Q:手術が生理中に当たりそうですが 、大丈夫ですか?


A:一般的には月経中でも手術は可能です。しかし、手術の内容によっては、出来れば月経中は避けた方が良い場合もあります。手術が月経にあたるようでしたら、担当医にご相談下さい。

一般的に、子宮鏡下手術は月経中は全く不可能です。子宮筋腫核出術も、できれば避けた方がいいでしょう。



Q:手術後何ヶ月ぐらいたったら妊娠してかまいませんか。

A:子宮筋腫核出術、卵巣嚢腫核出術、卵管形成術などの手術後、2回月経があれば妊娠してかまいません。2回月経があるというと、実際には術後1ヶ月から2ヶ月になります。性交渉も術後1ヶ月ぐらいたてばかまいません。

術後どの程度妊娠しないようにしたら良いか、産婦人科医が一致した意見を持っているわけでも、根拠があるデータがあるわけでもありません。長い場合は半年後と言われることもあるようです。しかしこれが間違いであるというデータもありません。私は2回月経があれば、といっていますが、「すぐ妊娠してもいいのでは」という意見もあります。しかし、開腹手術後2週間や3週間で性交渉を持つのも大変かなと思います。そこで、2回月経があれば、と説明をさせて頂いています。

麻酔
Q:どんな麻酔で手術するのですか?

A:手術の症例がある程度以上ある病院では、手術室で行う手術の麻酔や手術中の全身管理は、麻酔科の専門医が担当します。

麻酔科の専門医は患者さんの全身状態や予定されている手術術式から、最善の麻酔法を選択し、手術を受けられる方に予め説明します。

麻酔科医師は、手術の前に患者さんのところに、問診や診察、説明のために回診に来ます。麻酔科からの説明文書もよくお読みいただき、判らない点や不安な点などは遠慮なくお尋ねになることが大切です。

麻酔には、大きく分けて全身麻酔と局所麻酔があります。

全身麻酔は、患者さんが寝てしまうもので、記憶に残りません。多くの場合、呼吸も止まってしまいますから、呼吸は人工的に行われます。いわゆる人工呼吸が手術中ずっと行われてると考えて頂ければいいでしょう。

局所麻酔には、硬膜外麻酔や腰椎麻酔のように下半身とか比較的広い範囲を麻酔する場合と、局所浸潤麻酔といって注射した狭い部位だけが効く麻酔があります。

病院によって麻酔の方法は少しずつ異なります。

多くの病院で、帝王切開の場合は腰椎麻酔か硬膜外麻酔で手術を行います。全身麻酔にすると麻酔薬が胎盤を通って胎児にも達し、あかちゃんが出てきたときに寝ていることが多い(自分でうまく呼吸できないこともある)からです。

私の病院では、子宮筋腫核出術や子宮全摘術、卵巣がんや子宮がんの手術の場合は硬膜外麻酔と全身麻酔を併用することが多いようです。

腹腔鏡下手術の場合は、全身麻酔だけで手術することが多くなります。

輸血、自己血輸血、特定生物製剤

Q:輸血が必要かも知れないと言われました。必要ですか?

手術で出血が多くなった場合には、やむをえず輸血が必要になることがあります。また、病気によっては輸血をしてはじめて完全に病巣を切除できる場合もあります。しかし、輸血にはそれに伴う副作用がありますので、できるだけ輸血をしないよう工夫し、また輸血する場合は成分輸血といって赤血球や血小板など必要な成分のみを輸血するなどして副作用を減らすようにしています。

手術の前には、輸血を予定していない場合でも、輸血の承諾書をいただくことがあります。予期しない出血があった場合、患者さんの同意がなければ輸血ができないからです。

輸血に伴う副作用は、1)輸血実施中あるいは実施後早期に出現するもの(皮膚のかゆみ、発疹、ふるえ、発熱、胸痛、腰痛、血尿、ショックなど)と、2)輸血実施後時間を経て出現するもの(輸血による感染症など)の2つに分けられます。副作用の発生率(10本輸血した場合)は現在、肝炎などの感染症が1/1,000以下、発疹や発熱など軽症のアレルギー反応が1/20〜1/100、ショックなど重症のアレルギー反応が1/10,000、エイズが1/2,000,000くらいとされています。

自己血輸血を除くと、輸血に使われる血液は献血により集められ、日本赤十字社血液センターから供給され、現在判明している感染症の多く(HIV、B型肝炎、C型肝炎、梅毒など)については検査が行われているものです。しかし、感染してから検査で陽性になるまで少しタイムラグがある、肝炎の一部にはまだ原因のわからないウイルスによることがあるなど、検査で感染症の全てがわかるわけではありません。輸血を受けた場合には、その後定期的に肝機能を調べるなどの検査が必要です。

私の経験では、広汎性子宮全摘術や卵巣がんの手術で輸血を必要とするのは5-10%程度、腹式子宮全摘出術 ・膣式子宮全摘出術  ・腹腔鏡補助腟式子宮全摘術(LAVH) ・子宮筋腫核出術 ・帝王切開術 ・子宮外妊娠の手術では1-5%かあるいはそれ以下です。

宗教上の理由などで輸血を拒否される場合には、手術を縮小せざるを得ないことがあります。輸血を拒否される方が手術を受けられる場合には、輸血に関する同意書にサインをされる必要はありませんが、「輸血の説明と拒絶」にサインをして提出していただく必要があります。

Q:自己血輸血を勧められました。自己血輸血ってなんですか?

A:ご自分の手術の際の出血に備えて、自分自身の血液をためておく(貯血しておく)ことです。

ご自分の血液ですので輸血による感染などの副作用の心配はありません。採血による貧血を防止するために造血剤(鉄剤)を服用したり、注射しながら1回200−400ccずつ採取します。

自己血輸血を受けるには、もともと貧血など合併症がない、手術までに時間的ゆとりがあるなど、多少の制約があります。また、あらかじめ輸血の可能性が高い(数%以上ある)と判断される場合にしか実施できません。

Q:特定生物由来製剤を使うかも知れないと言われました。特定生物由来製剤というのはなんですか?

A:特定生物由来製剤というのは、血液凝固因子、人血清アルブミン、人免疫グロブリン、輸血用血液のような血液製剤や、人胎盤抽出物など感染症の発生リスクがある程度想定される製剤です。

産婦人科で比較的よく使われるものとしては、タココンブ、アビテン、フィブリン糊などと呼ばれる止血作用のある生物製剤があります。

どんな手術でも、出血を止める(止血といいます)操作はとても大切です。止血は一般的には、糸で縛ったり、電気で凝固して行われます。しかし癒着がひどく広い範囲を剥離したような場合や骨盤の深い部分で出血したような場合、腹腔鏡下手術で細かい止血操作が困難な場合は、これらの特定生物由来製剤を使うことがあります。もちろん、どうしても必要な場合に限って用います。

特定生物由来製剤を使う可能性がある場合は、手術の前に説明をし、患者さんの同意を得ます。また、使った(1)製品名、(2)製造番号(ロット番号)、(3)患者の氏名、住所、(4)投与日などは、20年間保管されることになります。

手術の傷

Q:お腹を横に切って欲しいのですが?

A:お腹をどのように切開するかは、患者さんの希望の他に、病気の種類とその程度、肥満度なども考慮してご相談の上、決めることになります。

下腹部を横に切開する方法は、縦の切開に比較して目立たないために美容上は優れています。また、同じ大きさの場合、術後の痛みがやや軽いようです。

しかし、手術後に皮膚の下に血が溜まったり(皮下血腫)、お腹を縦に通っている神経が切れるため、お腹の皮膚に違和感が残るなどの欠点があります。さらに横の傷は大きさが限られるために、十分によく見える状態で手術が出来なくなったり、手術がやりにくく時間がかかったりします。また、将来、開腹手術が予測される場合は、繰り返し横に切っていると次第にやりにくくなります。例えば、子宮内腔に近い部位の子宮筋腫核出術で、将来帝王切開が予測されるような場合です。

また、子宮がんや卵巣がんでリンパ節を廓清したり、大網(お腹の中にエプロンのようにある脂肪組織です)を切除するような場合は、縦に切開しないと手術がかなり難しくなります。

子宮筋腫核出術や子宮全摘術の場合、私自身は4-7cm(多くは5-6cm)のお臍の下の縦切開で手術をするようお勧めしています。大きな子宮筋腫や多発の子宮筋腫で腹腔鏡下手術が不可能な場合は、この傷から子宮筋腫を小さくばらばらに切りながら出して手術をします。小さいので傷跡もあまり目立ちません。この場合は、縦に切らないと(つまり横に切開すると)傷が大きくなってしまいます。縦に切った方が傷そのものが上下に動きやすいので、大きな筋腫でも小さな傷から手術可能になります。

もちろん美容上の問題も大切です。同時に、安全に確実な手術を行うことも大切です。この二つをどうバランスをとるか、手術の前によく相談をさせて頂きます。



横の切開と縦の切開


大きな筋腫は横切開では手術が難しくなります


卵巣がんや子宮がんでは切開をお臍の上まで延長することがあります

Q:ケロイドができやすい体質です。大丈夫でしょうか?

A:傷が治って変化しない状態になるまで、数か月から数年かかります。この期間の傷は刺激を受けやすく、特に張力(傷口を押し広げるように働く力です)がかかると傷口が盛り上がってくることがあります。これは肥厚性瘢痕とかケロイドと呼ばれます。

肥厚性瘢痕とケロイドの区別は医学的にも明確でありません。ここでは創部の不快な盛り上がりを一括して肥厚性瘢痕と呼びます。下腹部は肥厚性瘢痕ができやすい部位です。これは、下腹部の方が張力がかかりやすいためと考えられています。また、術後体重が増加した方に肥厚性瘢痕ができやすい傾向があります。これも張力がかかりやすいためと考えられています。

 私達は肥厚性瘢痕の防止を目的として、創部に緊張がかからないような縫合法を採用したり、低刺激性のテープで退院後も創部の緊張を取るよう指導させて頂くなど工夫を行っていますが、それでも肥厚性瘢痕を完全に防止することはできません。

 術後数か月(2か月頃からが多いようです)たって、傷に赤みがでたり痒みがでる場合は、担当医にご相談をください。肥厚性瘢痕の発生を抑える作用のある内服薬を服用したり、特殊なテープやシートで創部を処置することが有効なことがあります。なおこれらの創傷処置製品の中には健康保険の適応がないものがあります。

 また、瘢痕部を切除して再縫合することが有効な場合もあります。このような場合は形成外科に紹介いたします。





Q:傷口が盛り上がりやすい体質なのですが、自分でできる対策はありますか。

A:手術をする前に、傷口が盛り上がりやすい体質であることを、担当医にご説明ください。それに応じて多くの場合、肥厚性瘢痕ができにくい縫合法などを検討するはずです。

私自身はほとんどの場合、皮膚の表面に糸は使わず、吸収糸(自然にとける糸)で、皮下を縫合しています(皮下埋没縫合)。表面はテープでとめています。したがって抜糸はありません。

このテープは、数週間で次第にはがれます。はがれてきたら、傷跡にたまった古い血液やゴミを取り除いて頂き(シャワーやお風呂で構いません、よほど強い力を加えないと傷が開いたりはしません)、テープ(マイクロポアや優肌絆ゆうきばんなどです。自費です。薬局でご購入ください)を、3cm程度の長さに切って、傷を合わせるようにまた傷に直角になるように貼ってください。できればできれば面倒でも1年ぐらい貼って頂いた方がよいでしょう。

かぶれたりすることがなければ、このテープは3-7日に1回、入浴の際などに張り替えてください。

もし、2-3か月たって、傷跡に赤みが出てきたりかゆみが出てくる場合は、病院に受診してください。ステロイドの入ったテープ(ドレニゾンテープなど)や肥厚性瘢痕を押さえる内服薬(リザベンなど)を処方することがあります(保険が使えます)。

肥厚性瘢痕ができあがってしまったら(成熟瘢痕といいます)、上記の方法ではよくなりません。傷跡が盛り上がって硬くなり、色も暗褐色になってきたら成熟瘢痕の状態です。

この状態になった場合は、シリコン(ゲル)シート(商品名はFシート、シカケアー、トリポロン、クリニセルなどです)が有効です。ケロイド・肥厚性瘢痕の症状改善に有効としてFDA(アメリカ食品・医薬品局)でも認可されています。保険は使えませんので薬局、インターネットなどで購入して頂くことになります。これで、肥厚性瘢痕を圧迫し続けると、次第に平坦化することができます。

そのほか、体重をコントロールすることも大切です。

きれいな傷跡のために、執刀医は小さな傷にする、丁寧に縫合するなどの努力を行っています。同時に、手術を受けた方がご自分で管理して頂きたい点もあります。協力してきれいな目立たない傷にしたいものです。


傷跡の変化




シリコンシートのFシートを私の手に貼ったものです
合併症、副作用
Q:開腹手術を受けた場合、どんな合併症や副作用が予測されますか?

手術後、早期に起こるものと時間がたってから起こるものがあります。以下に書いてあるのは、開腹手術に関するものです。

手術後早期(1週間程度以内)に起こるもの

<痛み>

手術後麻酔が切れてから、痛みがあります。手術後、24時間程度までは痛みが強いので、その間、硬膜外麻酔など手術の時に使った麻酔用のチューブから麻酔薬を流し続け、痛みを取る方法があります。これによって、術後の痛みはずいぶん軽減されます。

それ以外にも、痛み止めを使うこともあります。

術後の痛みは1−3日ほどでおおむねおさまりますが、痛みが強い場合は遠慮なく担当医にお話ください。ある程度の痛みは避けられませんが、痛みのために不安がつよくなったり、歩行開始が遅れることは望ましくありません。また、痛みが術後のさまざまな合併症の症状であることもあります。

<発熱と感染>  

開腹手術では、一般に術後2−3日間は特に夜間38度前後までの発熱がみられます。これは手術そのものによる発熱で、正常な手術後の経過です。

しかし、特に術後4日目以降に発熱が続くような場合は、手術創部の感染、肺炎などの呼吸器系の感染、膀胱炎や腎盂腎炎のような尿路感染など、種々の原因による感染があることがあります。このような場合はその原因を調べたり、治療が必要になります。

退院した後、発熱がある場合は、担当医にご連絡いただくか外来を受診してください。

<傷が開く>

まれに腹壁の傷が開くことがあります。

もともと骨盤内膿瘍のように手術部位に感染があったり、肥満、糖尿病の合併があったり、栄養状態が悪かったりすると起きやすいものです。

大部分は表面(筋膜という組織より上で、脂肪層のみ)のつきがわるいだけですが、極めてまれにお腹を包んでいる腹膜まで離開する場合があります。傷の手当てをしながら自然に経過をみてよい場合と、再縫合が必要な場合があります。

<腹腔内に出血する>

手術後、血管をしばった糸がはずれたり、止血を行った場所から再度出血することがあります。この場合は、止血をはかるために、再手術をする場合があります。

また、皮下に血腫(血液の塊)ができる場合があり、普通より術後の発熱が長く続いたり、その部分に痛みが残ったりすることがあります。血腫が大きい場合はその部位を再度開けて止血をしたり、ドレーンという管で血液を外に出す道を作るなどの処置が必要になります。

<腸閉塞(イレウス)>

通常、手術後48−72時間位は腸管の運動が低下します。これは長時間の腸管露出などの手術操作に加え、麻酔薬・鎮痛薬の使用、水分・電解質のバランス異常などによるものです。

この腸管の運動低下が、何らかの原因で高度になると、腸管内のガスの溜まりが強くなり、お腹の張りや嘔吐が出現し、麻痺性イレウスと呼ばれる状態になります。この状態になると、食事を止めたうえで、薬を使って腸管の運動を促進させたり、お腹の張りをとるために、鼻から胃や腸管までチューブを入れたりすることがあります。また、イレウス状態が続く場合やそれ以外の原因によるイレウスが考えられる場合は、再手術が必要となることがあります。


<腎不全>

術後、尿が少なくなったり、全く出なくなることがあります。術前から慢性の腎不全があって悪化する場合と、術後にはじめて起こる場合があり、腎臓の機能が回復するまでに2−3週間を必要とすることがあります。輸液と利尿剤の使用により対処しますが、透析が必要になることも極めてまれにあります。

<褥瘡(いわゆる床擦れです)>

同じ体位で長く寝続けていると、背中や臀部などが長時間圧迫され、そこに治りにくい潰瘍ができます。これを褥瘡いいます。術後早期に離床する、たびたび体位を変える、清潔を保つことなどでその発生を予防することが最も大切です。

<大腿神経麻痺>

長時間(概ね4-5時間以上)の下腹部手術を行うと、極めて稀に大腿神経麻痺が起こることがあります。これは、手術器具によって大腿神経が圧迫されるために起こり、痩せたひとに起こりやすい傾向があります。

これを防止するための工夫を行っていますが、それでも確実に防止できるわけではありません。大腿神経麻痺によって、術後歩行障害が起こることがあります。この麻痺のほとんどは自然に回復しますが、回復にはリハビリテーションが必要になったり数か月を必要とすることがあります。

<静脈血栓症と肺塞栓症>

エコノミークラス症候群というのを多くの方がご存じでしょう。飛行機の中の狭い座席にじっと座っていると足の静脈に血栓(小さな血のかたまり)ができ、歩き出したとたんその血栓が肺に飛んで、肺の血管に詰まってしまうため、場合によっては一瞬にして命を失うものです。中越地震の際にも、車の中で寝泊まりしていたかたが数人これでなくなったと報道されていました。

手術後も、じっと寝ている時間があります。同じように足の静脈に血栓ができることがあります。この血栓によって、下肢の痛みや腫れ、発熱などの症状が出ることがある他、肺塞栓症(血栓が血流に乗って流れ、肺の血管につまって起こる)が起こることがあります。

肺塞栓症は、急性の呼吸不全を起こし、術後突然死の原因になることが極めてまれにある
非常に危険な合併症です。

静脈血栓症や肺塞栓症の予防のために、術後ベッド上での下肢の運動や早期離床をお願いしています。

また、高齢・肥満・長時間の手術などが危険因子になりますので、これらの危険因子がある場合は、弾性ストッキングやフロートロンと呼ばれる器械で下肢をマッサージしたり、血液の凝固を抑える薬剤(ヘパリンと呼ばれます)を使うことがあります。血液の凝固を抑える薬剤を使うと術後の出血が起こりやすいという欠点があります。

これらの処置を行っても完全に静脈血栓症や肺塞栓症を予防することはできません。静脈血栓症が起こってしまった場合は、湿布、安静などの処置をします。また肺塞栓症の発生を防ぐため(あるいは肺塞栓症の治療のため)、血栓を溶かす薬を使うことがあります。また症状が強い場合には、血栓を取り除く手術が行われることもあります。一方このような血栓は手術前から存在する場合があり、術後に血栓が流れた場合の肺塞栓症を予防するため、心臓につながるお腹の太い静脈(下大静脈)にフィルターを挿入する処置を行うことがあります。

手術後時間を経過してから(1週間程度以上たってから)起こるもの

<お腹の傷の小さな感染、発赤>


腹壁の縫合には、吸収される糸を使っています。肥厚性瘢痕(ケロイド)の発生を少しでも減らし、傷を出来るだけ目立たなくするためにいくつかの工夫を行っていますが、そのために皮膚のすぐ下に透明の細い糸を用いることがあります。この糸は腹壁から出てくることがあります。またまれに、糸に対する一種の異物反応を起こしたり、小さな感染が起こることがあります。いずれの場合も外来で処置をすることが出来ます。

小さなものであれば放置しておいても自然に治ります。

<肥厚性瘢痕>

手術をした腹壁の創部が赤くなったり、かゆみがでてきたり、盛り上がってきたり、硬くなることがあります。上記をご覧ください。

<尿管や膀胱、腸管の損傷による副作用>

手術の際に、尿管や膀胱、腸管を損傷した場合、しばらくたってから尿漏れや腹膜炎を起こすことがあります。

また、広汎性子宮全摘術では膀胱や直腸に行く神経を切断せざるを得ないために、膀胱麻痺やつよい便秘が続くことがあります。排尿障害は排尿訓練によってまず回復します。便秘には緩下剤などを処方します。

<腸閉塞(イレウス)>

腸閉塞になると、便やガスがでなくなり、嘔気、嘔吐が起こります。術後1週間以上たってからおこる腸閉塞は、腸管の癒着によって起こることが多く、腹痛がつよく、腸はぐるぐると大きな音を立てていることが少なくありません。再開腹手術が必要になることがあります。

退院されてからのことが多いので、このような症状があった場合はすぐ病院に受診してください。

<足のむくみ、リンパ嚢胞>

足のむくみは骨盤や大動脈周囲のリンパ節を廓清した際に起こりやすくなります。また骨盤内にリンパ嚢胞といってリンパ液がたまった袋ができることがあります。そこに感染することもあります。手術後に放射線照射が必要になった場合は、とくにむくみがひどくなる傾向があります。

足にリンパ液がたまってむくむだけではなく、赤くぱんぱんになって腫れ上がることがあります。感染が起こリンパ管炎の状態になっていることが原因の場合があります。すぐに病院に受診してください。

足のむくみがひどくなるのを防ぐために、リンパ節廓清を行った場合は、術後次のようなことを守ってください。


1)術後は数年間、長時間の立ち仕事、歩行、山登りなどは避けてください。スポーツをされるのであれば、水泳が適しています。
2)寝ているときは足の下に枕のようなものを置いて足を高くして寝てください。
3)座っているときもできれば足を投げ出すように(足を高く保てるように)工夫してください。
4)むくみが出るようなら弾性ストッキングを使ってください。足のマッサージが有効なことがあります。医師にご相談ください。

<性交障害>

子宮がんが膣の方に広がっているような場合や転移がある場合は、膣を大きく切除します。このため、性交障害が起こることがありますが、これはむしろ例外で、ふつうの子宮全摘術で性交障害が起こることはまずありません。


膀胱も直腸も子宮に隣接しています。癒着などがあると膀胱や尿管、直腸を損傷することがあります。







骨盤リンパ節や大動脈リンパ節を廓清すると足がむくみやすくなります

Q:手術をすると癒着が起こる可能性があるといわれました。癒着というのは何ですか。

A:本来くっついていないもの同士がくっつくことを癒着といいます。人間の体は、傷ができるとくっついて治ります。お腹の傷が治るのも、手のけがが治るのもくっついて治ります。開腹手術をすると、お腹の中にも大きな傷や小さな傷がたくさんできます。もともと、くっついているところがくっつくのはよいのですが、しばしば本来くっついていないものがくっつきます。例えば、腸と子宮とか、卵管と卵巣とかがくっつきます。これが癒着というわけです。

手術をすると癒着がしばしば起こりますが、実際にそれが問題になることは稀です。この稀に問題になる場合として、腸閉塞の原因になったり、不妊の原因になることがあげられます。

ですから癒着は起こらなければ、その方がよいことになります。手術の時には癒着を起こさないために、さまざまの工夫をし、また注意を払います。では、十分に注意を払うと癒着が完全に防止できるかというとそうではありません。残念ながら癒着が起こることはあります。

手術の後、早く歩行を開始することは、腸の活動を高め、癒着を防止する効果があります。手術の後で大変だとは思いますが、どんどん歩くようにお勧めする一つの理由はここにあります。


ザクロの実は美しいですね。本文とは無関係です。

Q:子宮全摘術を予定しています。更年期障害になるのではないかと心配です。

A:子宮は、ホルモンを分泌する器官ではありません。卵巣を一緒に切除しない限り、ホルモン的には更年期障害が起こることはありません。

しかし、子宮を切除したという心理的な圧迫が更年期障害の誘因になる可能性はあります。子宮をとったからといって、女性でなくなったり、中性になるわけではありません。今まで以上に女性らしく生きることで、更年期障害になるのではという不安も克服できるでしょう。